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宮崎地方裁判所 昭和52年(行ウ)3号 判決

原告 有限会社都城環境衛生センター

被告 都城市長

主文

被告が、原告からなされた昭和五二年三月二四日付し尿浄化槽清掃業許可申請について、同年一〇月二九日別紙記載の理由によりなした不許可処分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

主文一、二項同旨

二  被告

請求棄却、訴訟費用原告負担

第二請求原因

一  原告は、し尿浄化槽の清掃業を目的として、昭和五〇年四月八日設立された会社である。

二  原告は被告に対し、同五二年三月二四日、廃棄物の処理及び清掃に関する法律九条一項(以下、条文のみ)により、し尿浄化槽清掃業の許可申請をしたところ、被告は、主文一項記載のとおり不許可処分に付した。

三  右処分は、九条二項の解釈を誤まつた違法の処分である。

すなわち、被告は、原告が同項に該当するか否かの審査をなさず、別紙記載の理由により不許可処分をなしたものであり、その違法であることは明らかである。

第三答弁と抗弁

一  請求原因一、二項認、同三項争う。

二  本件不許可処分に違法事由はない。

1  九条の許可、不許可は市町村長の自由裁量に委ねられている。

すなわち、七条および九条の事業の営業を市町村長の許可にかからしめたのは、右事業は本来市町村の責務に属するが(六条、地方自治法二条三項七号、同法別表第二の一一)、これを全て市町村自らが行うことはできないため、許可業者をして代行させ、自ら行つたのと同様の効果を確保するためである。

従つて、市町村長が右許可を与えるか否かは、法の目的(一条)と当該市町村の清掃計画とに照し、汚物処理の事務を円滑、完全に遂行するのに必要適切であるかどうかの観点からこれを決すべきである。右は七条については明定されている(七条二項一号、二号、四号ハ、三項)。

ところで、九条の清掃作業には、通常、七条の作業が伴う。否、むしろ、九条のし尿浄化槽の清掃作業の大部分は、七条に規定する汚泥の収集、運搬または処分によつて占められる。それ故、九条の許可業者は、七条の許可を得ることなく、同条所定の作業をなしうるとされていた(同法施行規則二条二号)。若し、九条の許可業者が七条の作業を自ら行わない場合には、七条の許可業者に作業の依頼をすることになるが、それでは九条の営業は成立たないのである。

九条の許可業者の行う七条の作業も、前記市町村の行う汚泥処理計画に適合しなければならないことはいうまでもない。

斯様に考えると九条と七条の区別を設けたこと自体問題がある。いわんや、九条の許可は、七条のそれと異なり、いわゆる覊束処分であると解釈することは、法の所期する生活環境の保全、公衆衛生向上の目的に背馳する結果を生む。

九条の許可は覊束処分であるとする行政解釈、九条の許可業者は許可を経ることなく七条の作業をも行いうるとする立法政策は、行政末端で破綻を生じ、昭和五三年八月一〇日厚生省令第五一号により前記規則二条二号は削除された。従つて、現在は、九条の許可業者であつても、七条の作業を行う場合には、同条所定の許可を要する。

都城市においては昭和四六年九月以来、七条、九条の許可業者として都城北諸地区清掃公社が存在し、市および町も資本参加している。他方、市は、し尿処理施設として市衛生センターおよび都北衛生センターを設置し、右公社と密接な連携をとりながら、汲み取りし尿および浄化槽の汚泥を計画的かつ効率的に処理している。現在、し尿汲み取り量、浄化槽の汚泥ともに増加の傾向にあるが、右し尿処理施設の処理能力は限度にきつつある。

若し、原告に九条の許可を与えんか、新たな汚泥投入を拒否せざるをえない実情にある。又、不許可処分の理由にいうとおり、様々な弊害を生じ、市の行うし尿、汚泥の計画的効率的処理に重大な支障を及ぼすおそれがある。

被告は以上の理由にて本件不許可処分をなしたものであつて、何ら違法理由は存しない。

2  原告には九条二項二号、七条二項四号ハに該当する事由がある。すなわち、先に述べたとおり都城市のし尿処理施設は新たな汚泥の投入を拒否せざるをえないが、原告は汚泥処理の施設を保有しないから不法投棄同様の処分をするであろう。

よつて、不許可処分は理由がある。

第四原告答弁

九条二項の許可は覊束処分である。従つて、同項に規定しない事由を理由としてなされた不許可処分は違法である。被告が、不許可理由として述べるところはいずれも独断である。又、既存の業者のみが市のし尿処理施設を利用しうるかの如き被告の主張は全く理由を欠く。市のし尿等の処理能力が限界にきつつあるとすれば、それはとりもなおさず住民の排出する一般廃棄物が増加したことを意味する。従つて、被告は、し尿等処理計画の再検討をすべきであり、それが正に六条一項の趣旨である。

なお、原告は、汚泥を正当に投棄する場所を確保している。

第五証拠〈省略〉

理由

一  請求原因一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、同三項、被告の抗弁について判断する。

1  九条一、二項の許可の基準は、厚生省令で定める技術上の基準に適合すること(二項一号)および欠格事由のないこと(同二号)であり、市町村長は、許可申請が右基準に適合するときは、必ず許可を与えるべきであり、右に定める事由以外の理由により不許可処分をすることは許されないと解するのが相当である(七条二項一、二号と対比)。昭和五三年改正前の施行規則二条二号の存在は、九条についての右解釈を妨げるものではない。

2  本件不許可処分の理由は別紙記載のとおりである。右は、九条二項各号所定の事由に該らない。

3  被告は、原告は九条二項二号(七条二項四号ハ)に該当すると、不許可理由を追加して主張するが、市の施設を既存の業者にのみ使用させ、原告には使用させないことを前提とする右主張は、直ちには採用し難い。

4  してみると、被告のなした本件不許可処分は違法であるから、これを取消すべきである。

三  よつて、民訴法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 蒲原範明 前原捷一郎 木下徹信)

(別紙) 不許可通知の表示

し尿浄化槽清掃業の不許可について

昭和五二年三月二四日申請のあつたし尿浄化槽清掃業の許可申請については、下記理由により許可しないこととしたので、通知します。

一 許可しない理由

当市におけるし尿浄化槽の清掃については、現在市が許可している業者(以下「許可業者」という)において、当市区域内に設置されているし尿浄化槽の清掃を完全に実施するに十分な人的・物的施設を有し、現に当市の定めた一般廃棄物処理計画にしたがい市衛生センター及び都北衛生センターの処理機能も考慮して、し尿浄化槽の清掃を計画的・効率的にかつ適正円滑に実施しております。ですから申請人に対し、新たにし尿浄化槽清掃業の許可を与えるときは、許可業者との間に無用の競争、混乱を生じ、それがひいては当市の行うし尿及びし尿浄化槽汚でいの計画的・効率的な処理に重大な影響を及ぼすおそれがあるといわざるを得ません。

それは法の所期する生活環境の保全・及び公衆衛生の向上の目的に背馳することも明らかであります。

よつて、申請人の当申請は許可しないこととします。

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